⽝と猫の画像診断Q&AWHAT IS YOUR DIAGNOSIS?

2022/11/30

画像診断Q&A「3:腎リンパ腫」

症例

  • 雑種猫、16歳、避妊雌、体重8kg
  • 5日前からの食欲および活動性低下を主訴に来院した。対症療法で良化せず、精査として腹部X線検査を実施して左腎の腫大を確認したため、超音波検査をすることとなった。血液検査所見はBUN=45.5、Cre=2.62、その他の生化学検査の値は正常であった。

  • 1:左腎の超音波画像

 

問題

  1. 超音波画像における左腎の異常所見はなにか?
  2. この所見から考えられる鑑別診断はなにか?
研修医(以下:研)
研修医(以下:研)

腎臓の周りに帯状に低エコー示す部位があります。

画像診断医(以下:画)
画像診断医(以下:画)

これは”腎被膜下の低エコー帯”と呼ばれる所見ですね。

研

これがあることで、X線検査において腎臓が不整に腫大しているようにみえたのですね。

画

そう考えられますね。代表的な鑑別診断はリンパ腫です。被膜下の低エコー帯を認めた猫において、8割の猫がリンパ腫と診断されたという報告があります(文献1)。三日月型に見える場合もあれば、全周性に縁取られている場合もあります。

研

8割ということは他の疾患でもこの低エコー帯が見えることがあるのですか?

画

猫伝染性腹膜炎(FIP)や腎癌の症例でも認められることがあります。FIPの猫の3割で確認されたという報告がありますね(文献1)。FIPにおいて認められる低エコー帯は被膜下腔への炎症細胞浸潤によるものと考えられています(文献2)。

研

そうなのですね…リンパ腫の低エコー帯も被膜下への腫瘍細胞の浸潤によるものと考えられていますよね(文献2)。

画

はい。ですから低エコー帯を観察しただけでリンパ腫と決めつけてはいけません。リンパ腫診断のための腎被膜下の低エコー帯の感度は60.7%、特異度は84.6%と言われています(文献2)。

研

確定診断には生検が必要ですよね?

画

はい。被膜下に針先がくるように採材すると良い標本が作製できると思います。

問題に対する解答

図2:図1のシェーマ

  1. 腎臓被膜下、尾側を主体として低エコー帯を認める。
  2. リンパ腫、猫伝染性腹膜炎(FIP)、腎炎など

    問題に対する診断のポイント

    • 腎臓の周囲に三日月型あるいは全周性の縁取りのように低エコーを呈する帯状構造物が観察された場合、これを腎被膜下の低エコー帯と呼ぶ。腎臓の被膜下に腫瘍細胞や炎症細胞が浸潤することにより形成される。
    • 猫において、腎被膜下の低エコー帯が観察された場合、リンパ腫が筆頭鑑別診断であるが、腎癌や猫伝染性腹膜炎(FIP)においても観察されることがある。
    • この所見は、リンパ腫の症例で82%が両側性であるが、FIPの症例においても13%で両側性であるため、両側性か片側性かで鑑別診断を絞ることはできない(文献3)。
    • リンパ腫の症例において、腎臓に異常所見を認めた場合、全ての猫がこの低エコー帯を呈するのではなく、結節性病変や瀰漫性病変もしばしばみられる(図3,4)。
    • また、腎被膜下に無〜低エコー性の液体が貯留する腎周囲偽嚢胞(図5)が、類似する画像所見を示すことがある。この場合、血流の有無(被膜下の細胞浸潤の場合には、カラードプラにおいて血流が観察される。)を確認する必要がある(図6)。

     

    • 図3: リンパ腫と診断された腎臓の超音波画像。低エコー性を呈する多発性結節が認められる。
    • 図4: リンパ腫と診断された腎臓の超音波画像。 皮髄の境界が不明瞭化し、瀰漫性に低エコーを呈する。軽度の腎盂拡張を伴う。

      • 図5: 腎周囲偽嚢胞の超音波画像。多発性嚢胞腎を伴う症例である。この嚢胞の破裂により、腎被膜下に液体が貯留している。この病態を腎周囲偽嚢胞と呼ぶ。
      • 図6: リンパ腫と診断された腎臓の超音波画像(カラードプラ)。低エコー帯に血流が認められ、腎周囲偽嚢胞を否定できる。

        文献リスト

        • 文献1VALDÉSMARTÍNEZ, A. L. E. J. A. N. D. R. O., Rachel Cianciolo, and Wilfried Mai. “Association between renal hypoechoic subcapsular thickening and lymphosarcoma in cats.” Veterinary Radiology & Ultrasound 48.4 (2007): 357-360.
        • 文献2Kipar, A., et al. “Morphologic features and development of granulomatous vasculitis in feline infectious peritonitis.” Veterinary pathology 42.3 (2005): 321-330.
        • 文献3Lewis, Kristin M., and Robert T. O’Brien. “Abdominal ultrasonographic findings associated with feline infectious peritonitis: a retrospective review of 16 cases.” Journal of the American Animal Hospital Association 46.3 (2010): 152-160.
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