⽝と猫の画像診断Q&AWHAT IS YOUR DIAGNOSIS?

2024/08/14

画像診断Q&A「10:下腹部の石灰化所見②」

症例

  • フレンチ・ブルドッグ、13歳、去勢雄、体重2kg。
  • 内科療法への反応に乏しい、2ヶ月前からの血尿を主訴に来院した。
    • X線検査において、下腹部に石灰化を伴う軟部組織腫瘤を認め、超音波検査にて精査することとなった(前回のコラム参照)。
    • 超音波画像を図1,2に示す。

     

    • 図1:下腹部の超音波画像(矢状断像)
    • 図2:図1よりもやや尾側の超音波画像(矢状断像)

    問題

    • 超音波画像の異常所見について述べよ。
    画像診断医(以下:画)
    画像診断医(以下:画)

    腹腔内腫瘤の由来は分かりましたか?

    研

    はい。先生がおっしゃったように頭側の腫瘤陰影は膀胱、尾側の腫瘤陰影は前立腺だったようです。

    画

    やはりそうだったのですね。それでは、超音波所見を述べてください。

    研修医(以下:研)
    研修医(以下:研)

    前立腺が腫大しています。去勢雄であることを考えると、腫大の程度は重度である、といえます。あとはX線で認められた石灰化と一致する、複数の高エコー領域が前立腺の内部に認められます。膀胱と前立腺の境界はわりと明瞭ですが、膀胱尖から膀胱体にかけて、膀胱壁の一部が肥厚しています。

    画

    診断は何でしょうか?

    研

    前立腺については、去勢雄であること、石灰化を伴っていることの2点から、前立腺癌などの腫瘍を強く疑います。膀胱壁の肥厚については、前立腺の病変との連続性が明らかでないので、慢性膀胱炎と前立腺腫瘍の播種の両方が鑑別に含まれると思います。

    画

    よいと思います。それでは、飼い主に胸部X線検査と前立腺の生検を提案してみましょう。

    問題に対する解答

     

    • 図3:図1のシェーマ
      • 超音波画像から、X線で認められた2個の軟部組織陰影は膀胱(水色)と前立腺(オレンジ)であることが分かる。膀胱体〜膀胱尖にかけて、膀胱壁が不規則に肥厚しており(矢印)、慢性膀胱炎または前立腺腫瘍の播種が疑われる。
    • 図4:図2のシェーマ
      • 去勢雄であることから、前立腺(オレンジ)が重度に腫大していると判断される。前立腺の内部には、石灰化を強く示唆する、音響陰影(灰色)を伴う高エコー領域(白)が散在している。

    問題に対する診断のポイント

    • 前立腺腫瘍の超音波所見は以下の通りである。
      • 前立腺の腫大
      • 前立腺辺縁の不整像
      • 不均一な内部構造/エコー源性
      • 前立腺実質の石灰化
      • 尿路閉塞(尿管/尿道への浸潤)
      • 膀胱壁の肥厚(膀胱への浸潤または転移)
      • 領域リンパ節の腫大(リンパ節転移)
    • 上記の超音波所見のうち、前立腺腫大と石灰化については、去勢雄と未去勢雄で解釈が異なる。
      • 去勢犬の前立腺は通常は萎縮しており、超音波検査では尿道の一部が若干膨らんでいる程度にしかみえない(図1112)。主観的ではあるが、この範疇を明らかに越えた場合に、前立腺が腫大している、と判断される。また、去勢雄においては、前立腺腫瘍以外の前立腺疾患(良性前立腺過形成、前立腺炎、前立腺嚢胞、前立腺膿瘍)が基本的にはみられないことから、前立腺の腫大や石灰化がみられた場合には、前立腺腫瘍が強く疑われる。
      • 4歳以上の未去勢犬の前立腺は、過形成のために腫大している。また、前立腺腫瘍だけでなく、慢性前立腺炎においても前立腺が石灰化することがある。このことから、前立腺腫大や前立腺の石灰化がみられたからといって、必ずしも前立腺腫瘍とは限らない。その他の画像所見(膀胱/尿管/尿道への浸潤、リンパ節転移の有無など)を病歴、身体検査所見等と合わせて総合的に判断する必要がある。

    前立腺腫瘍の画像診断のまとめ

    • X線検査において下腹部に2個の軟部組織腫瘤があり、それらの間に脂肪陰影を主体とした三角形上の陰影がある場合、それらは膀胱と前立腺の可能性が高い。
    • 未去勢犬では、前立腺腫瘍以外に慢性前立腺炎においても前立腺が石灰化することがある。
    • 去勢雄の前立腺に石灰化が認められた場合、前立腺癌である可能性は極めて高いが、例外もある。

    文献リスト

    • Bradbury CA, Westropp JL, Hecht S, Pollard RE.” Relationship between prostatomegaly, prostatic mineralization, and cytologic diagnosis “Vet Radiol Ultrasound. 2009.50(2):167-71.
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