症例
- 雑種猫、未避妊雌、8歳9ヶ月齢
- 健康診断のため来院。胸部X線検査を行った。
- たまに咳こむことがあるが、身体検査や血液検査において大きな異常所見はなし。
- 図1:胸部右ラテラル像
- 図2:胸部VD像
問題
- X線画像上の異常所見は何か?
右肺中葉あたりの所見はどう思いますか?
え、これ普通に肺炎じゃないんですか?
ちゃんとVD像見ましたか?
えーっと…心臓の形がなんかおかしい気がします…
心臓が右に寄っています。心臓の右側変位ですね。
心臓が、寄る???そこにある右肺中葉はどうなっているのですか?
潰れてしまっていると考えるのが妥当ですね。このような病態を無気肺と言います。
問題に対する解答
- X線画像上の異常所見は何か?
肺野に瀰漫性の気管支パターンを認める。VD像において心臓が右側へ変位し、右肺前葉-中葉間には肺葉サインを認める。
- 図3-4:図1−2の拡大像
慢性気管支炎に続発して、右肺中葉は閉塞性無気肺となったと考えるのが妥当ですね。もちろん肺炎との鑑別が困難なときも多いので、血液検査結果や臨床症状と合わせて考える必要があります。
なるほど〜。無気肺についてちょっと調べてみます。
無気肺に対する診断のポイント
- 無気肺と肺虚脱
肺胞内ガスが肺胞から出ていくことを肺虚脱といい、このような病態で不透過性陰影として認められる肺を無気肺という。肺の陰影自体は肺胞パターンと同様であり、肺胞パターンの中に無気肺を含めることがあるが、無気肺の場合には肺容積減少に伴い患側への縦隔変位を伴う点が肺胞パターンと異なる。
- 閉塞性無気肺(図1-2の症例はこれに該当)
気管支の閉塞に伴い、閉塞部より末梢の気管支領域の肺胞から空気が肺毛細血管床を通して吸収されることにより生じる。原因として、気管チューブの過挿管(特にCT撮影時)、気管支の過剰な滲出液、異物、腫瘤などがあげられる。気管支の閉塞部位によるが一般的には単葉性が多く、肺全体が虚脱するまでには数日を要する。このため、この所見を認めた場合は慢性あるいは陳旧性変化を第1に疑い、臨床症状とあわせて評価する。造影CTにおいては、虚脱した肺は肺胞内の空気のみが抜けた状態であることから、血管が密集しており、造影増強効果を有するのが特徴である(図5)。また、超音波検査においては均一に肝片化した、血流を有するが含気していない肺が描出される(図6)。
- 図5:閉塞性無気肺を疑うCT画像肺条件および造影CT軟部条件。右肺中葉の虚脱に伴い、心臓が右側へ変位している。同症例に撮影当時、臨床症状は認められなかったため、過去の肺炎に続発した変化が疑われた。
- 図6:図1-2と同一症例の右肺中葉の超音波画像。肝片化して縮小した肺実質が観察される。カラードプラにおいて血流を確認できる。
- 圧排性無気肺
肺の受動的な圧迫による容積の減少に起因する。肺末梢部の吸気不良や、大量の胸水、気胸、占拠性病変(大きな肺腫瘤などの)の存在による圧迫が原因となり得る。占拠性病変による圧排を除いて、肺野末梢、複数の葉に観察されることが多いが、病変が末梢にのみ認められる場合にはX線での異常所見は確認できないことが多く、肺葉全体に及んだ場合に肺胞パターンとして観察される(図7-8)。CT検査においては末梢に限局する浸潤影を確認することができる(図9-10)。
- 図7:胸水が貯留している症例のX線VD像。
- 図8:図7の拡大像。左肺前葉後部にエアーブロンコグラムを伴う肺胞パターンを認める。鑑別診断として、圧排性無気肺、肺炎、肺出血、肺腫瘍などがあげられるが、重度の胸水貯留を伴うため圧排性無気肺が第1に疑われる。心臓の変位についてはポジショニング不良により評価困難である。
- 図9:胸水貯留に続発した圧排性肺虚脱を疑う症例の単純CT肺条件。右肺中葉および左肺前葉後部にエアーブロンコグラムを伴うコンソリデーションを認める。
- 図10:図9と同一症例の造影CT画像、軟部条件。圧排性肺虚脱を疑う肺葉は造影増強効果を有する。
文献リスト
・Fukuda, Shoko, et al. “Diagnostic imaging and histopathologic features of rounded atelectasis in four cats and one dog: A descriptive case series study.” Veterinary Radiology & Ultrasound 64.3 (2023): 411-419.
・Giglio, Robson F., et al. “Radiographic characterization of presumed plate-like atelectasis in 75 nonanesthetized dogs and 15 cats.” Veterinary Radiology & Ultrasound 54.4 (2013): 326-331.
肺野に瀰漫性の気管支パターンを認めますね。慢性気管支炎がありそうです。