症例
- ミニチュアシュナウザー、8歳、避妊雌。
- 1週間前からの発咳を主訴に来院。食欲も低下している様子。胸部X線検査を実施したところ左肺後葉領域に不透過性の亢進を認め、精査としてCT検査を実施した。
- 図1:CT横断像・肺条件
- 図2:CT横断像・軟部条件・単純撮影
- 図3:CT横断像・軟部条件・造影平衡相
問題
- CT画像上の異常所見はなにか?

辺縁も不整で、内部不均一な造影増強効果を示しており、いかにも悪性腫瘍という感じですね。

それにしても、とても大きいですね。左肺後葉のほとんどが腫瘍化しているのでしょうか。

そう考えられますね。X線だと一様な不透過性亢進となるので、鑑別診断が難しいかもしれません。

前回の肺葉捻転と同じように、腫瘤の中にガスがありますね。

腫瘤化した肺に通っている気管支内にガスが残存しているのです。

なるほど。他の断面から見てみると、気管支の連続性がよくわかります(図5)。

多断面から腫瘤を観察するのはとても大事ですね。さて、今まで述べてきた腫瘤の大きさや、腫瘤内の気管支内ガスの残存が鑑別診断のポイントとなる腫瘍がありますが…もう気づいていますか?

!!?

どちらも犬の肺組織球性肉腫で代表的な所見です。覚えておきましょう。
問題に対する解答
- 図4:図3のシェーマ。左肺後葉に孤立性腫瘤を認める。
- 図5:冠状断像。エアブロンコグラムの連続性がわかりやすい。
- 左肺後葉に、エアブロンコグラムを伴う辺縁不整な孤立性腫瘤を認める(赤矢印)。
- 腫瘤内部は単純CTにおいて等吸収を示し、造影CTでは内部不均一な造影増強効果を示す。
問題に対する診断のポイント
- 犬の肺組織球性肉腫はバーニーズ・マウンテンドッグ、ロットワイラー、ゴールデン・レトリバー、ウェルシュ・コーギー、ミニチュア・シュナウザーが好発犬種として知られている。多くは孤立性腫瘤としてみられるが、しばしば多発性腫瘤を形成する1。
- 同じく肺原発性腫瘍である肺腺癌と比較して大型の腫瘤を形成する傾向にあり、単一の肺葉全域への浸潤や、エアブロンコグラムを伴うことも多いため1、気管支肺炎や誤嚥性肺炎との鑑別に注意が必要である。
- 好発部位は右肺中葉、左肺前葉である。肺門リンパ節や前胸骨リンパ節の腫大を伴うことが多い2。
- 図6:同一症例において腫大した左気管気管支リンパ節(黄*)腫瘍のリンパ節転移が第1に疑われる。
- 犬の肺組織球性肉腫は、腹腔内(肝臓、脾臓、腹腔内リンパ節など)に転移することもあるため3、腹部超音波検査とあわせた診断が必要である。
文献リスト
- 文献1:Barrett, Laura E., et al. “Radiographic characterization of primary lung tumors in 74 dogs.” Veterinary Radiology & Ultrasound 55.5 (2014): 480-487.
- 文献2:Jones, Brian G., and Rachel E. Pollard. “Relationship between radiographic evidence of tracheobronchial lymph node enlargement and definitive or presumptive diagnosis.” Veterinary Radiology & Ultrasound 53.5 (2012): 486-491.
- 文献3:Meuten, Donald J., ed. Tumors in domestic animals. John Wiley & Sons, 2020.
左肺後葉にとても大きな腫瘤があります。