症例
- アメリカンカール、1歳、避妊雌。
- 咳を主訴にホームドクターを受診し、胸部X線検査を実施したところ、胸腔内腫瘤が認められたことから紹介来院した。紹介来院時の胸部X線画像を図1〜3に示す。
- 図1:右ラテラル像
- 図2:左ラテラル像
- 図3:VD像
問題
- 胸部X線画像上の異常所見はなにか?
- この病変の主な鑑別診断はなにか?

VD像では境界明瞭な腫瘤ですね。

あれ?でもなんでこの腫瘤……ラテラル像ではよく見えないんだろう?

まるで心臓のあたりにまとわりついているように見えますね。

ですが、それにしては心臓との境界が明瞭ではないですか?

良い着眼点ですね。軟部組織腫瘤がもし心臓と接していた場合にはシルエットサイン陽性になるので、境界は見えなくなるはずです。

え、もしかして軟部組織ではない……?

軟部組織以外のものが胸腔内で腫瘤のように見えることもありますね。

そんなことが!

軟部組織と比較してX線透過性が高いことに着目しましょう。
問題に対する解答
- 図4:VD像
- 図5:右ラテラル像
- 図6:左ラテラル像
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VD像において、心臓の左尾側に辺縁平滑な孤立性腫瘤が認められる(緑△)。腫瘤は心臓を右側に圧排しているが、心臓との境界は明瞭である(青矢印)。左右のラテラル像において、腫瘤は心臓尾側の境界不明瞭な陰影(黒矢印)としてみられるが、VD像と同様に心臓との境界は明瞭である(青矢印)。左ラテラル像では、横隔膜の一部が不明瞭化している(黄△)。
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腹膜胸膜ヘルニア、胸腔内脂肪腫(縦隔、心嚢、胸膜腔)、肺脂肪腫/脂肪肉腫など
問題に対する診断のポイント
- 胸腔内腫瘤と心臓との境界が明瞭であることから、腫瘤は脂肪組織由来と判断される。犬と猫の胸腔内に発生する脂肪組織由来の腫瘤の鑑別として、腹膜胸膜ヘルニア(Spears et al.)、胸腔内脂肪腫(Nickel et al.)、肺脂肪腫(Lynch et al.)および肺脂肪肉腫(Schwartz et al.)が挙げられる。本症例は、横隔膜ラインが不明瞭であることから、腹膜胸膜ヘルニアが強く疑われる。
- 追加検査として超音波検査を実施したところ、横隔膜の一部が欠損し、心臓(赤)と肝臓(青)の間に比較的均一な比較的均一な低エコーを示す腫瘤(黄)が認められた。
- CT検査では、横隔膜の左腹側領域が欠損し、欠損孔(オレンジ△)から肝鎌状間膜の一部(白*)が胸腔に脱出していた。外傷歴ならびに外傷を示唆する画像所見を伴わないことから、先天性の腹膜胸膜ヘルニアと診断された。
文献リスト
- 文献1:Spears, White, McConkey., “What is your diagnosis?” J Am Vet Med Assoc. 2018 Jun 15;252(12): 1463-1466.
- 文献2:Nickel, Jeffrey, and Michael Mison. “Intrathoracic lipoma in a cat.” Journal of the American Animal Hospital Association 47.6 (2011): e127-e130.
- 文献3:Lynch, S., et al. “Pulmonary lipoma in a dog.” Journal of Small Animal Practice 54.10 (2013): 555-558.
- 文献4: Schwartz, Bellah, Kennedy., “What is your diagnosis? Malignant liposarcoma of the right middle lung lobe.” J Am Vet Med Assoc. 2005 Mar 1;226(5): 695-6.
先生!胸腔内に腫瘤を認めました!