症例
- シーズー、13歳齢、避妊雌、体重8kg。
- 腹部を痛がることを主訴に来院した。腹部X線検査にて脾臓の陰影が明瞭に観察されず、超音波検査を実施。
- 図1,2:脾臓の超音波画像
問題
-
超音波所見ではどのような異常がみられるか?
そうですね。ではどんなことが考えられますか?
脾臓のエコー原性低下の鑑別としては、脾炎やリンパ腫などの瀰漫性浸潤、あと梗塞などでしょうか。
そうですね。この脾臓ですが、低エコーなだけではなく実質がやや粗造でいわゆるレース状パターンがみられていますね(図1)。このパターンは血流低下に伴う浮腫や壊死による変化とされており、梗塞や捻転で見られる所見になります。
なるほど。その2つは見分けられるのですか?
実質のエコー原性のほかに脾腫やカラードプラでの血流の低下など所見が似ているため超音波検査での鑑別は難しいかもしれません。ですが、捻転では脾門部の静脈がやや拡張して、その周囲に三角形の高エコー領域が見られることが報告されているので、このようなパターンの脾臓をみたときは脾門部や脾静脈にも注目して検査をする必要がありますね。
脾門部や脾静脈はあまり注意してみていませんでした。画像を見返すとすごくよく似た所見があります(図2)。それにしても明らかな脾腫がないようですが捻転なのでしょうか?
たしかに脾腫は脾捻転の多くの場合でみられますが、捻転の程度や時間経過によっても脾臓の大きさは変化する可能性があるので、脾臓が小さくても否定はできません。画像から確定するには血栓による梗塞や壊死などの鑑別をするためにも腹部CT検査が必要ですね。
問題に対する解答
- 脾実質にびまん性低エコーがみられレース状パターンを呈し、鑑別には梗塞、壊死、捻転が挙げられる。
- 捻転では脾門部における脾静脈の拡張やその周囲の三角形の高エコー領域を認める場合がある。
- 脾門部の高エコー領域から連続して腸管膜脂肪の輝度上昇が見られる。
CT検査の画像がでました!明らかな脾臓の変位や脾腫はなかったのですが、脾臓はほとんど造影されず、捻転に特徴的な脾静脈周囲のWhirl signがでていました。
Whirl signは腸管膜捻転や脾捻転で報告されており、捻転部の血管を中心に間膜が渦巻状に見られる所見で、今回の症例でも典型的なものが見られています(図3)。脾腫がないのは血流の部分閉塞や慢性経過と考えられますね。
診断のポイント
- 図3:CT検査にて確認されたホイールサイン
- 脾捻転は大型犬にみられることが多いが、中型犬や小型犬でも発生が報告されている。
- 胃拡張胃捻転症候群との併発が多いが、脾臓単独での捻転の報告もある。
まとめ <脾捻転の典型的な画像所見>
- X線検査:脾腫/脾頭部の陰影が不明瞭/ラテラル像で逆C字状に変形
- 超音波検査:脾腫/実質のレース状のパターン/脾門部の三角形の高エコー域/腸管膜脂肪の輝度上昇/腹水貯留
- CT検査:脾腫/脾臓の位置異常/実質は造影増強に乏しい/ Whirl sign/CT値の高い腹水貯留
文献リスト
・Ki-Ja Lee, Seong-Mok Jeong, Ho-Jung Choi and Young-Won Lee : Diagnostic Imaging of Isolated Splenic Torsion in a German Shepherd Dog J Vet Clin 2011;28(6) : 613-616
・Mai W. :The hilar perivenous hyperechoic triangle as a sign of acute splenic torsion in dogs. Vet Radiol Ultrasound 2006; 47: 487-491.
・Hardie EM, Vaden SL, Spaulding K, Malarkey DE. :Splenic infarction in 16 dogs: a retrospective study. J Vet Intern Med 1995; 9: 141-148.
・Jonathan R. Hughes Victoria S. Johnson Marie-Aude Genain :CT characteristics of primary splenic torsion in eight dogs Vet Radiol Ultrasound. 2020 May;61(3):261-268.
脾臓はいつもより低エコーに見えます。脾臓周囲の脂肪もびまん性に高エコーですね。これは異常でしょうか……