症例
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ダルメシアン、12歳、避妊雌。
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2週間前より発熱および四肢のふらつきおよび浮腫が認められた。発熱は抗生剤の内服により落ち着いたが、四肢の浮腫は悪化傾向を示している。
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四肢関節X線画像を図1~4に示す。
- 図1:手根関節AP像
- 図2:手根関節ラテラル像
- 図3:足根関節AP像
- 図4:足根関節ラテラル像
問題
- X線画像上の異常所見は何か?
そうですね。左右ともに手根関節、足根関節周囲の軟部組織が腫脹していますね。まるで関節炎のようです。
じゃ、跛行の原因は関節炎ですかね。
ちゃんと関節以外の所見も見ましたか?
!!
1つの所見をみつけたら終わりとか思ってませんよね……ぶつぶつ……
あ、え、えーっと、骨……骨……あれ、骨膜反応があります。隣接する骨に溶解像はないようですが……
しかも1か所ではないようですよ。どんな鑑別診断があげられますか?
問題に対する解答
- X線画像上の異常所見は何か?
左右の手根関節および左右足根関節周囲の軟部組織が腫脹している。左右第5中手骨(黄矢印)、右第3基節骨(赤矢印)、左右距骨(青矢印)に辺縁不整な骨膜反応が認められる。
- 図5−9:図1−4の拡大像
四肢すべての比較的遠位の骨に辺縁平滑な骨膜反応が認められます。これにより筆頭鑑別は肥大性骨症となります。もちろん、関節周囲軟部組織の腫脹を伴うので、慢性関節炎による反応性の骨膜反応も考えられますね。
なるほど〜。肥大性骨症って、あれ肺腫瘍に続発するんですよね。
そのことが多いですね。胸部X線画像も見てみましょうか。
その後の経過
診断のポイント
通常、肥大性骨症は胸腔内の炎症性疾患あるいは腫瘍に続発すると言われているが(文献1)、腎移行上皮癌(文献2)や肛門嚢腺癌(文献3)など様々な疾患が報告されている。その中で、犬の骨肉腫は癌の肺転移よりも肥大性骨症を誘発しやすい(文献4)。病変は進行性であるが、原発巣を除去すると治癒する(文献5)。このような症例は、胸腔内病変に関わらず、跛行やふらつきを主訴に来院することが多い。四肢のX線検査が胸腔内病変を診断する重要な一助となる可能性があるが、病変は小さく見逃されやすいため、注意が必要である。
文献リスト
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Johnson, Robert L., and Stephen D. Lenz. “Hypertrophic osteopathy associated with a renal adenoma in a cat.” Journal of Veterinary Diagnostic Investigation 23.1 (2011): 171-175.
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Hammond, Tara N., Michelle M. Turek, and Joan Regan. “What is your diagnosis? Metastatic anal sac adenocarcinoma with paraneoplastic hypertrophic osteopathy.” Journal of the American Veterinary Medical Association 235.3 (2009): 267-268.
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Grillo, Thais P., et al. “Hypertrophic osteopathy associated with renal pelvis transitional cell carcinoma in a dog.” The Canadian Veterinary Journal 48.7 (2007): 745.
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Jubb, Kenneth Vincent F. Pathology of Domestic Animals 6E. Vol. 1. Academic press, 1985.
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Liptak, J. M., et al. “Pulmonary metastatectomy in the management of four dogs with hypertrophic osteopathy.” Veterinary and comparative oncology 2.1 (2004): 1-12.
病歴にも四肢の浮腫とあるとおり、軟部組織が腫脹しているようにみえます。